木は、光合成によって、空気中の二酸化炭素と水から炭水化物を生成して成長します ゆえに、薪のもつ熱量の半分以上は炭素や水素といった揮発性のガスが占めるといわれます これらが酸素と結びついて化学反応をくりかえし、 熱を産出しながら燃え尽きた状態を、「完全燃焼」とよびます 「熱効率が高い」とは、薪のもつ熱量をできうる限り多く得た状態を指しますが、 実際には、炉のなかでどのような現象が起こっているのかひも解いてみましょう ■燃焼の第一段階:点火 薪に点火すると、シューシューと音をたてながら薪内部の水分が蒸気となって放出される 150~200℃に達すると、 薪のなかにとじこめられた炭素や水素などが酸素と結合して化学反応を繰り返し、 揮発性のガスが放出しはじめる この場合の揮発性ガスとは、主に炭素・水素・酸素の化合物である酸化炭素や二酸化炭素、 メタン、エチレン、樹脂、酢酸、水蒸気などを指す ■燃焼の第二段階:揮発性ガス類の燃焼 火箱内部温度が約300~350℃に達した時点で水素が発火して燃焼をはじめ、水蒸気を生成 一酸化炭素も燃焼をはじめる これまで熱を吸収していた揮発性ガスが、逆に熱を産出しはじめることで急激な温度上昇が生じる 一部の炭素は酸素と結合して、「炭水化物」を生成 炭素は700℃をこえると燃焼をはじめる 火箱内の温度上昇につれ、ガス類は複合体から単体に変化し、より早い速度で炭水化物を燃焼 このとき、適切な量の酸素とガス類が混じって乱流しており、炎は明るい黄色味を帯びた状態 ■燃焼の第三段階:炭の燃焼 ほとんどのガス類が燃え尽きたあとには高温の赤い炭が残る 上部に青みがかった短い炎は、この時点で残存する一酸化炭素 800℃をこえると、炭水化物などが放出されると同時に引火して燃え尽きる 不完全燃焼の場合は、 一酸化炭素、煤(酸化炭素)、自由水素、大量のタール*と有機化合物の残渣などが残る 上で述べた燃焼過程に近づき、 薪のもつ熱量を最大限に利用するには、次の3つの要素を考えることが重要といえます ■火箱内部の高温を維持する構造体 (熱伝導がおそく熱反射のすぐれた炉壁体) ■適切な酸素量: ロシアの研究結果によれば、炭水化物と空気が均等に混ざり合うことはないため、 論理上の1.6~2.4倍程度の燃焼空気が必要といわれます 酸素量が多すぎると、揮発性ガスは燃える前に、バラストガス**とともに煙突に抜けてしまい、 結果、多大な熱エネルギーの損失につながります ■適度に乾燥した薪(水分含有率20~15%)を使う: 水蒸気の発生を減らすことで、 火箱の高温達成に貢献し、バラストガスの生成を減らすことができる *タール: 燃焼されなかった揮発性ガス類が濃縮、液状化したもの(クレオソートと同義語)で、 煙突火災の原因となる可燃性物質 **バラストガス: 燃焼過程に直接関係しないガス類のこと 使われなかった酸素、薪のなかの水分と水素由来の水蒸気、窒素などが含まれ、 それ自体は燃焼することはなく、揮発性ガスの熱エネルギーを吸収するため、熱損失の元となる